マレーシアの道路を走る白や銀のセダン——その多くが「プロトン(Proton)」です。マレーシアに住んでいると、毎日のように目にするこの国民車ブランド。そのプロトンに深く関わる中国の自動車大手・吉利汽車(Geely)で、2026年8月18日、創業者の李書福(リ・シューフー)氏が63歳で会長職を退任しました。
9年前にプロトン再生の架け橋となった人物が、なぜ今このタイミングで退任するのか。そしてプロトンの未来はどう変わるのでしょうか?
李書福とはどんな人物?
李書福氏は「中国のエンジン大王」とも呼ばれる人物です。1986年に吉利汽車を創業し、冷蔵庫部品メーカーからスタートして自動車製造に参入。2010年にはスウェーデンの名門ブランド、ボルボ(Volvo)を約18億ドルで買収し、世界に名を轟かせました。
日本でいえば、ホンダの本田宗一郎氏や、かつてのトヨタ・豊田章男氏のような「創業者カリスマ」として、中国自動車産業を牽引してきた存在です。
プロトンと吉利——9年間の軌跡
2017年、マレーシア国民車の雄・プロトンは経営危機に陥っていました。かつてはマレーシアの誇りだったこのブランドが、日本車・韓国車の攻勢に押されて苦境に立たされていたのです。
そこに手を挙げたのが李書福氏率いる吉利でした。吉利は2017年にプロトン株の49.9%を取得。残りの50.1%は国策企業DRB-HICOMが保有しています。
この提携以降、プロトンは劇的な復活を遂げます:
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2017年 | 吉利がプロトン株49.9%を取得。李書福氏が主導 |
| 2019年 | Proton X70(吉利ベースのSUV)がマレーシア市場に投入 |
| 2022年 | 年間販売台数が20万台を突破(約20年ぶりの快挙) |
| 2024年 | タイ・インドネシアへの輸出開始 |
| 2026年 | 創業者・李書福が会長職を退任 |
なぜ今、退任するのか?
李書福氏の退任は「急流勇退」——絶頂期に自ら身を引く、中国式の名誉ある退場として評されています。
後任には安聡慧(アン・コンフイ)氏(56歳)が就任。技術畑出身の実務家として知られる安氏への承継は、吉利が「創業者個人に依存した経営」から「組織による制度的な運営」へと移行する転換点を意味します。
日本でいえば、ソフトバンクの孫正義氏がいずれ後継者に経営を委ねるような——創業者のカリスマが組織の仕組みへと昇華する瞬間、といえるでしょう。
なお李書福氏は「終身名誉会長」として吉利と関わり続け、グループの親会社「浙江吉利控股集団」の会長職は引き続き務めます。完全な引退ではなく、「戦略的な後退」です。
吉利の業績——好調な数字が退任を後押し
吉利は2026年上半期(1〜6月)に過去最高の業績を記録しました。この好業績が、李書福氏に「最高の花道」を演出した背景にあります:
| 指標 | 数値(MYR換算) | 日本円換算 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 約1,043億RM | 約4.1兆円 | +15% |
| コア純利益 | 約58.2億RM | 約2,280億円 | +46% |
| 販売台数 | 142.3万台 | — | 過去最高 |
※1RM=39.2円(2026年8月18日時点)
純利益が46%増という驚異的な伸びは、EV(電気自動車)への積極投資と新興国市場への展開が奏功した結果です。
プロトンへの影響は?
吉利の経営体制が変わっても、プロトンへの影響は限定的とみられています。プロトンはすでに吉利との技術共有を軌道に乗せており、新モデルの開発ロードマップも安定しています。
一方で、新会長の安聡慧氏は技術重視派として知られているため、プロトンのEV化をさらに加速させる可能性があります。プロトン初のEVである Proton e.MAS 7 はすでにマレーシア市場に投入されており、次のモデル展開が注目されます。
日本人が知っておくべきこと
プロトン車を検討している方へ:
- プロトンは事実上「吉利の技術をまとったマレーシア国産車」です。品質は2017年以降に大幅に向上しており、以前の「安かろう悪かろう」というイメージは過去のものです
- 人気SUVのX50(RM79,200〜、約310万円〜)やX70(RM112,800〜、約442万円〜)は、日本の同クラス車と比べて割安感があります
- アフターサービスはマレーシア全土に拠点があり、在住者には使い勝手の良いブランドです
経済・投資に関心がある方へ:
- 吉利はインドネシア・タイでもプロトンのCKD(現地組立)を推進中で、ASEAN全体でのプレゼンスを高めています
- 吉利の業績が好調なほど、プロトンへの技術・資本投資も継続されます。今回の経営交代は「プロトン離れ」ではなく「さらなる成長フェーズへの移行」と読むのが自然でしょう
マレーシアで毎日目にするプロトン。そのブランドを陰で支えてきた人物が表舞台から去りましたが、9年間で築いた仕組みはしっかり次世代に引き継がれています。マレーシアの道路を走るプロトンを見るたびに、この9年間のドラマを思い出してみてください。
写真: Anton Holmgren / Unsplash
出典: China Press の情報を元に、日本人在住者向けに独自作成した記事です。価格・条件は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。


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