「借金が帳消しになったら、会社はどうなるのか?」——そんな夢のような話が、マレーシアの上場企業Vantrisに起きました。2026年度通期決算で同社が発表した純利益は37億3,111万リンギット(約1,477億円)。この数字の裏には、40億リンギット(約1兆5,840億円)超にのぼる債務の免除という、文字通り桁違いの特別利益が存在します。
Vantrisとはどんな企業か
Vantrisはマレーシアに本社を置くエネルギー・海洋インフラ企業です。石油・ガス業界向けの掘削(ドリリング)サービスや、設備の運営・保守(O&M)、エンジニアリング・建設(E&C)を手がけています。日本でいえば、日揮や千代田化工建設のような「海外プロジェクトを受注するエンジニアリング会社」に近いイメージです。ただし近年はアンゴラ(アフリカ)向けプロジェクトの苦戦などで業績が低迷し、深刻な債務問題を抱えていました。
「債務再編」で何が起きたのか
| 項目 | 金額 | 日本円換算(1RM≈39.6円) |
|---|---|---|
| 免除された債務総額 | 40億RM超 | 約1兆5,840億円以上 |
| 2026年度通期売上高 | 37億4,388万RM | 約1,482億円 |
| 通期純利益(PATAMI) | 37億3,111万RM | 約1,477億円 |
| 通期LBITDA(事業損益) | −2億4,100万RM | 約−95億円 |
| 第4四半期EBITDA | +1億3,600万RM | 約+54億円 |
| 受注残高(2026年1月末) | 67億RM | 約2,653億円 |
2025年9月に完了した「債務再編(Debt Restructuring)」により、Vantrisは40億リンギットを超える負債を一括免除されました。この「棚ぼた利益」が特別利益として計上されたため、通期の純利益が37億リンギットという巨額になっています。
日本企業でたとえると、バブル崩壊後に不良債権処理を迫られた銀行が、再生支援として融資を切り捨てた「産業再生機構」のスキームに近い話です。借りた側の企業は帳簿上、免除額がそのまま利益として計上されます。
「事業の実力」はまだ赤字——しかし改善の兆し
純利益の数字は派手ですが、本業の収益力(LBITDA)は通期で2億4,100万リンギットの損失でした。アンゴラプロジェクトの不振が足を引っ張っています。
ただし、第4四半期(2026年1〜3月)に限ると様相が変わります。
| セグメント | Q4 EBITDA | 前四半期(Q3)比 |
|---|---|---|
| 掘削(Drilling) | +1億3,200万RM | 大幅改善 |
| 運営・保守(O&M) | +5,500万RM | 黒字維持 |
| 全社合計 | +1億3,600万RM | Q3は−1億5,000万RMの赤字 |
第4四半期はドリリング部門が牽引し、全社EBITDAが黒字転換。また、ブラジルでSeagems JV(合弁会社)が稼いだ持分利益は通期で4億8,100万リンギット(約190億円)と、グループ収益を大きく支えています。
E&Cセグメントの戦略転換——「低リスク契約」へのシフト
アンゴラ案件などで損失を膨らませたエンジニアリング・建設(E&C)部門は、低リスク契約への切り替えを進めています。固定価格での大型契約ではなく、コスト変動リスクを顧客側に転嫁できる契約形式に移行することで、損失幅が大幅に縮小しています。
日本のゼネコンが「丸抱えEPC(設計・調達・建設)」から「CM(コンストラクション・マネジメント)方式」へ移行するのと同じ発想です。
受注残高67億RM——仕事は確保されている
2026年1月末時点の受注残高(オーダーブック)は67億リンギット(約2,653億円)。これは今後の売上が確実に見込める「仕事の在庫」です。財務面の再編が完了し、事業基盤は着実に回復軌道にあると言えます。
日本人投資家・ビジネスパーソンへのメモ
- Bursa Malaysia(マレーシア証券取引所)上場企業のため、日本の証券会社でも外国株として購入可能な場合があります(要確認)
- 「純利益37億RM」はあくまで一時的な特別利益が主因。継続的な収益力の評価には事業EBITDAや受注動向を見る必要があります
- マレーシアのエネルギーセクターは政府系企業(Petronas)との関係が深く、国策的な支援も受けやすい環境です
- 同様の「債務再編→業績V字回復」は日本でもJALやダイエーで見られたパターンです。財務は改善しても事業競争力の再建には時間がかかる点は注意が必要
Vantrisの2026年度は「債務問題に一区切り」という意味で転換点となった年でした。本業の黒字化と受注積み上げが次の注目点です。
出典: China Press の情報を元に、日本人在住者向けに独自作成した記事です。価格・条件は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。


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